りっとの部屋

映画とか、日常とか、ゲーム開発とかを綴ります。

たりない奴と天才

以前、高校の頃の同級生から連絡が来た。
このブログを読んだことがある方はわかる通り、これまで散々しくじってきた自分に連絡をしてくる奴なんて、よっぽど肝が据わった奴しか連絡してこない。

連絡をしてきたのは、高校時代のダンス部で、同じクラスになったことがあった奴だった。

僕の学校は、二年生から専門選択制になり、一部教科を選択して履修する、まさに大学みたいなスタイルだった。
そして、履修した授業でそいつとは一緒になったり、なんだかんだ話す機会が多かった。

 

その同級生が連絡してきたのは、今度美容師としてデビューするから、そのPVの撮影と編集をやって欲しいというものだった。
僕は取り敢えず内容を聞いて、二つ返事で快諾した。

とはいえ、実際に会って話して、何をどういう風にしたいのか、平たく言えばクライアントのイメージを聞く必要があった。

そこで、母校の近くのファストフード店で待ち合わせて、高校卒業ぶりに会うことにしたのだ。

車で向かいながら、僕の頭の中は不安でいっぱいだった。

そもそも、ギャラが出る撮影案件は初めてで、しかも撮影自体久しく行ってなかった。
加えて、授業でやるような風景のみでのPVとかではなく、被写体がいて、誰の助けもなく一人で完成まで持っていかないといけない。

更には納期だ。
相場がどれくらいなのかは分からないが、このミーティングの時点で、既に2か月を切っていた。

時期的にも、課題に取り組んだり、テストを受けるタイミングなので、あまりにもヤバかったら引こうというのが正直なところだった。

 

いざ到着すると、母親から車のキーを受け取り忘れたまま出発してしまったため、運転できても、鍵を閉めてどこかに行けないという状況になった。

結局、母が別の車で向かってきて、鍵を渡してくれたのだが、これはとんだ失態である。
幸先悪いスタートだなぁなんて思いながら、僕は今回一緒に仕事をすることになる同級生と話していた。

とはいえ、久しぶりなのと、既に彼はダンサーとして、成功している部類の人間なので、僕は正直心許なかった。

 

だが、そんな僕とは裏腹に、流石HIPHOPの男である。
ただ久しぶりの友達と会うように、気軽な挨拶から、他愛もない話をし始めた。
僕はそれに触発されるように、高校時代の自分を重ねるように話すことができた。

 

少し世間話をした後、具体的にどうしたいのか、どんな感じがいいのかを聞いてみた。
予め、僕の専門はカメラワークであることを伝えた上で、よくある3DCGやド派手なエフェクトには対応できないということは伝えた。

色んな要望を聞いた上で、こちらからこんな感じで、こんなの入れるとこんな感じになってかっこよくなるのでは?と、企画マンのように提案していく。

そんなこんなでかれこれ1時間ほどで、制作の話は纏まった。

いつの間にか、諸々の不安は吹き飛んで、やれるという自信に変わっていた。

それもこれも、すべてはこの同級生のおかげだ。

制作の打ち合わせの中で、こんなやり取りがあった。

 

「半年でデビューするのは、俺の腕がいいから。」

 

なんでこんなに自信があるんだと内心思った。

どうやら、美容業界では、見習い期間と称して、シャンプーとか、サポートに回る期間が大体2年とかあるらしい。
長い人はもっと長かったりするようで、その中でも半年というのかなり早いそうだ。
確かに、他の同級生で美容業界に進んだ人は、未だにカットデビューしていないように思える。

ただ、だとしても普通は、「いやー、まぁ運がよかった」とか、「たまたまいけちゃってさ!」みたいな事を言って謙遜するものだと思うが、今回は違った。

その自信はどこから出てくるんだと聞いてみると、
「例えば、自信ないとか、普通の人に髪の毛やってもらうのと、俺めっちゃ自信あるし、俺が切ったら絶対かっこよくなる。って人、どっちに切って貰いたい?」
なるほど、確かにそうだなと思う。
続けて、自分にそれだけの力があるって思ってるけど。
と、前置きをしたうえで、「何があっても、自信を持ってないと弱く見える。」

高校時代から、ずっと光ってたコイツは、天才だったんだなと思った。
美容学校でも、成績はあまりよくなくて、むしろ下の方だったらしい。
それも、日本髪とか自分がやりたくないもので、その他のやりたいことに関しては、ちゃんと成績が良かった。
だから好きを伸ばそうと思ったみたいなのだが、こういう考えをする奴って、周りにどれくらい存在しているのだろうと思った。
でも、考えても答えは単純で、結局そんなに考えなくていいやと思っているのが大多数なのだ。
高校時代、光ってた奴は、こういうマインドを持ってたから、周りはついていったんだろうなと改めて実感した。

 

その後も他愛ない話は続いた。
高校時代に、クラスで映像を撮った話や、部活動の話、同級生の話。
かれこれ2時間くらい話していた。
久しぶり会った旧友との会話はとても弾んだ。

 

制作することも、企業案件なのでお金を頂くことになった。
僕は何度もアマチュアだから貰えないと断ったが、どんなに少なくてもそれは受け取ってくれと言われて受け取ることにした。

お金を受け取るということは、遊びじゃない。
受け取らないことで、僕は逃げ道を残そうとしていたのかもしれない。
本気で、仕事をやらねばならないことを実感した。

僕は彼に言われたことを思い出して、こう言った。
「俺の作る映像は間違いなくイケてるから任せとけ」


別れ際、HIPHOPのカッコいい挨拶を二人でやった気がする。
美容師とダンサーをやる天才と、社会性が欠如したたりない奴は、高校ぶりに、二人で作品を作ることになった。
そこから先の話はまた近いうちに。

 

 

りっと。